- 2007年5月24日 05:13
- 070524ケースライティングガイドブック
『日本ケースライティングガイドブック』 慶応義塾大学経営管理研究科,高木晴夫監修,2007
【要約】
このガイドブックでは、第1章に「ケース」とは何か、ケース教育はなぜ今求められているのか、ということがまとめられ、第2章以降にケースを実際作成し、活用する段階の様々な事柄についてがまとめられている。
<ケースとはなにか>
教育目的で制作される「ケース」とは、個々の場合におけるそれぞれの事実を教育の題材に仕立て上げたものの総称である。これを用いたディスカッション形式の「ケースメソッド授業」の具体的定義としては、「参加者個々人が訓練主題の埋め込まれたケース教材を用い、ディスカッションを通して、ディスカッションリーダーが学びのゴールへと誘導し、自分自身と参加者とディスカッションリーダーの協働的行為で到達可能にする授業方法」ということが示され、①事前授業、②グループ討議、③クラス討議、④振り返り、というステップを踏むと述べられている。
ケースメソッドがビジネス教育やMOT(技術経営)教育で有効な学習手段として活用される理由は、それぞれの教育に求められる要素からくる。ビジネス教育においてはPDCA(Plan→Do→Check→Act)サイクルを適切に回すこと、すなわちその局面における最適な意思決定をどのように行うかということであり、MOT教育においては技術に関する理論や知識を実践に結び付けていくために、「何を」「どのように」行うべきかという実践能力を体得し、意思決定能力を向上させること、ということである。これらの総合的意思決定力を培うのに対し、学習者がケースに記述された状況下で疑似的にその状況における最良の意思決定を行う訓練であるケースメソッドは非常に適した教育方法であるとまとめられている。
標準的なケースの構成は、ある時点での状況と課題が描かれる本文と、情報を捕捉するための付属資料との2部構成となっている。A4版で本文が3~4ページから15ページ程度、付属資料が1ページから5ページ程度の合計4~5ページから20ページ程度となるのが一般的である。本文はテーマ的なリード文(導入部分)から始まり、意思決定をせまられるまでに至る時系列項目と詳述すべき主要項目の記述、そして主人公の意思決定課題の提示、という3部構成になっている。学習者が疑似体験化しやすくするため、ケースの主人公は個人である場合が多く、その内容は、原則はすべて事実に基づくが、教育効果を高めるといった目的のために一部の情報が隠されていたり偽装される場合もある。
ケースの成立要件としては、①ディスカッションイシューを具備していること②意思決定を行う人物が登場していること、が欠かせない。①のディスカッションイシューに関してはどのようなものを取り扱う場合でも、PEST(Politics, Economy, Society, Technology)→3C(Customer, Competitor, Company)に関する情報は最低限抑えておく必要がある。また、意思決定者の属性についても明らかにしておく、単なる事実の列挙にならないよう心がける、などして学習者が意思決定を行う上での臨場感にかけるということがおこらないようにすることも重要である。
良いケースの条件としては
・目的にあった教育主題を持っている
・話の展開が優れている(読みやすく興味をひく)
・受講者に問題提起していて、受講者はそれが容易に認識できる
・受講者自身が分析・考察することができる内容である
・議論をかもしだす内容である
といったことが挙げられる。そのためには、一般化できる経営判断の問題を含んでいるか、意思決定者の観点から書かれているか、中立的かつ客観的な記述が、分析・意思決定に必要な最低限の情報が含まれているか、受講者の学習時間・負荷を考慮してあるか、記述対象の会社・個人の承諾が得られているか、製作者の分析や考察・解決策が入っていないか、などのポイントをチェックすることが必要である。
ケース制作のきっかけとしては、書きたいテーマ・論点が先にあり、それに合う対象物を探して書く場合と、書きたい対象物が先にある場合の2パターンがある。議論させたい論点が特定されており、論点が対象とする組織に存在することがわかっている場合に最も作成しやすく、両方ともわからない場合が最も作成が難しい。ケース作成において情報収集は必須の作業であるため、公開情報を利用したり、個別調査を行ったりすることが求められる。作成したケースについては、ケースライター自身のチェックはもちろんのこと、複数人によるチェックや試運転を経ることでより良いものになっていく。
また、完成したケースに関しては、多くのケースメソッド実践の場で使用されることが望ましいため、ケースライターの意図を他のケース利用者と共有するためのティーチングノートを作成すること、さらには、ビジネススクールや日本ケースセンターなどに登録を行うことも検討すべきである。
【コメント】
「瑞穂製鉄株式会社―フラット組織の導入―」に関しては、今回のガイドブックで示されている手順に沿って記述されている、まさにケース教材であると感じた。「フラット組織化の理論と実践―日本の大企業の場合―」については、ケースを基にした論文の書き方に関してとても参考になったのと同時に、1つ1つの事例を丁寧に取り上げているという印象を受けた。
教育目的のケースを書く、といっても自分にはビジネスに関する知識もあまりなく、どうすればケースを書くことができるのか不安に思っていた。しかし、このガイドブックや瑞穂製鉄についてのケースを読むことで、どのような順序で、どういったことに留意しながらケースを作成していけばよいのかイメージをつかむことができた。特に情報収集の仕方や、成立要件に関する部分、チェック方法などについては具体的に示されていたのでとても参考になった。
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